はじめに

ここ数年、よく話題に上がっている、カーボンゼロやカーボンニュートラル、SDGsなどの言葉。2030年をターゲットにして国や様々な企業が環境問題に対する取り組み目標を発表しています。
なぜいま、このようなムーブメントが起きてるのか?どうして必要なのか?農閑期で時間のある間に改めて調べてみたい、そして、千葉ぶどう園が一個人事業主としてできることはあるのか考えてみたいと思い、調べたこと、考えたことをなるべく簡単に分かりやすいようにまとめてみました。

個人的(園主妻)には、農業分野においては稲作と家畜関係の影響が想像以上に大きかったことに驚きました。特に家畜においては少し調べた限りでは抜本的な対応策というのは今のところまだ出ていないようです。稲作は日本の主食である米に関わりますし、畜産農家さんはいま存続の危機だということで環境問題対策のために更なるコストを負うことはかなり難しい状況かと思います。こういった分野にサポートを手厚くして、経営と環境と両方から持続可能な形をどうにか見出していってほしいな、と思いました。千葉ぶどう園も少しずつですが継続的に取り組んでいきたいと考えています。

また、今回は農業者としての立場から調べましたが、食というテーマから消費者としてやれることも大きいと感じています。消費者のニーズから生産者や業界が変わっていくことも多いからです。環境省から食と環境という視点から「サステナブルな食生活の提案」という資料も出されていますので、日々の食事で何ができるかな、と興味のある方はご覧になってみてください。

  • 各ポイントで情報源などのリンクも加えておきましたので、根拠を知りたい、もっと詳しく知りたい、という場合はリンク先も見てみてください。
  • ※印でリンクになっている単語はページ一番下の注釈に飛びます。

 


なぜ環境問題への取り組みが必要なのか?なぜ2030年なのか?

  • 環境問題は世界的な課題。
  • 2021年8月に公表されたIPCC※1の報告書によると、極端な高温、海洋熱波、大雨の頻度と強度の増加などを含む気候システムの多くの変化は、地球温暖化の進行に直接関係して拡大すると報告され、地球温暖化を抑えることが極めて重要であることが確認された。
  • 世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をするという目標が2015年のパリ協定※2で示された。
  • IPCCの「1.5℃特別報告書」において、気温上昇を約1.5℃に抑えるためには、2030年までに2010年比で世界全体のCO2排出量を約45%削減することが必要という知見が示された。
  • 温室効果ガスとは、大気中に存在しているCO2やメタン、フロンなどのガスのこと。
〇パリ協定についての情報(外務省ページ)https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html

目標が達成できなかったらどうなるのか?

  • 後戻りできなくなる(手遅れになる)リスク
    本来自然には、外から加えられた衝撃を吸収し、以前と同じ機能や構造を再生する力「レジリエンス(回復力) 」が備わっている。ただし外部からの衝撃が限度を超えると、元に戻れなくなるポイントがある。それをTipping Point(臨界点)を呼んでいる。
  • 2030年までに目標を達成できなければ、この臨界点を超えて、気候変動は後戻りできなく加速していく、と多くの研究者が警鐘を鳴らしている。
環境問題のTipping Point(転換点)についての記事
〇WIREDの記事 https://wired.jp/2019/12/24/climate-tipping-point/
〇ビジネスインサイダーの記事 https://www.businessinsider.jp/post-259380

農業と温室効果ガスの関係

  • 世界の温室効果ガス排出量を産業別でみると農業 は24%(「グラフ1」の点線水色で囲った部分)。
  • 日本の農業の中の温室効果ガス排出量では割合の高い順で燃料燃焼35.5%稲作排出メタン26.4%(田んぼからの発生)、家畜系由来26.2%(家畜の消化官内発酵、排泄分管理など)、農地土壌10.5%(土壌の過剰窒素、有機物の分解など)。

ちなみに、メタンの温室効果は二酸化炭素の28倍、一酸化二窒素は二酸化炭素の300倍。

※グラフは農林水産省資料「農林水産分野における環境イノベーションについて」(https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/climate/forum/attach/pdf/top-14.pdf)を元に千葉ぶどう園で作成。

農業で何ができるか、対策は?

「グラフ2」にあった日本の農業の中の温室効果ガス排出量割合とそれぞれの現在のところの大まかな対策。
そのうち、千葉ぶどう園に関わりがあり、取り組めそうなものは青字になっている項目

  1. 燃料燃焼35.5%
    • 農業機械の燃費向上、農作業の効率化
  2. 稲作排出メタン26.4%
    • 中干しの期間延長(灌漑の効率化)
    • メタン生成抑える品種開発(C4米)
  3. 家畜系由来26.2%
    • 家畜育種
    • 飼料配合の最適化
    • 健康管理の向上
  4. 農地土壌10.5%。
    • 農地への炭素固定(炭素貯留)
    • 土壌の過剰窒素を避ける
    • 植林・森林再生
〇農林水産分野における環境イノベーションについて(農林水産省資料)(https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/climate/forum/attach/pdf/top-14.pdf

千葉ぶどう園の取り組み

  1. 燃料燃焼
    • 農業機械の燃費向上、農作業の効率化
  2. 農地土壌
    • 農地への炭素固定(炭素貯留)
      • 草生栽培、有機物、たい肥の施用により土壌炭素貯留量の増加をはかる。
        • 就農当時より草生栽培導入。有機たい肥、肥料を使用。
        • 剪定枝をチッパーで細かくし、畑に戻す。
      • 剪定枝を炭素化し、畑に戻すことにより土壌へ炭素を戻す。
        • 2022年より無煙炭化器を導入して剪定枝を炭化して畑に戻す対策を試し中。
           
    • 土壌への過剰窒素を避ける
      • 就農当時より畑ごとに土壌診断に基づいた施肥計画をつくり、きめ細かい施肥を実施。過剰な施肥は行っていない。
  3. 食生活
    • カーボンフットプリント※3の低い美味しい食の紹介
      ワインおつまみセットの販売で、山梨のジビエや牛に与える飼料からこだわったチーズの紹介
〇農地による炭素貯留について(農林水産省資料)https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/goudou/13/pdf/data3_3.pdf
〇土壌炭素見える化 https://soilco2.rad.naro.go.jp/calc
〇山梨4パーミル・イニシアティブHP https://www.pref.yamanashi.jp/oishii-mirai/contents/sustainable/4permille.html
〇サステナブルな食生活の提案(環境省資料)https://www.env.go.jp/earth/ondanka/sustainable-syoku/mat01-1.pdf

※1 IPCC:(Intergovernmental Panel on Climate Change)気候変動に関する政府間パネル
世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織で、2021年8月現在、195の国と地域が参加。IPCCの目的は、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えること。
※2 パリ協定:国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)(2015年、フランス・パリ)において、「パリ協定」(Paris Agreement)が採択され、2016年に発効された。京都議定書に代わる、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みで、歴史上はじめて、全ての国が参加する合意といわれている。
※3 カーボンフットプリント:商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでの間に排出される温室効果ガスをCO2に換算し表示する仕組み

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